ASKA逮捕の日、ベンツのエンブレムとともに映し出されていたもの。
「夏が来れば思い出す はるかな尾瀬 遠い空」
とは、童謡『夏の思い出』。
同じように、しばらくの間はベンツのエンブレムを見ると、
ASKAのことを思い出す日々になりそうである。
ご存知ない方も多いと思うので少し解説する。
おととい(11月28日)、歌手のASKAが覚醒剤使用の疑いで逮捕された。
逮捕されたのは午後9時ごろだったが、遡ること7時間ほど前に
東京都目黒区内のASKAの自宅周辺に取材陣が殺到する事態に。
そんな中、タクシーに乗りASKAが帰宅。
しばらくした後、どこかへ出かけようとしたASKAが
ベンツの後部座席に乗りガレージから出ようとしたところ
待機していた100名以上の取材陣が殺到した。
ベンツの周囲にカメラマンや記者たちが群がりもみくちゃになった結果、
誰かしらの身体がボンネットに乗り上げたことで、ベンツのエンブレムがもげてしまった。
その様子は夕方のニュースで生中継されており、折れたベンツのエンブレムを
報道陣が踏みつけるところまで映し出された。
その経緯はこのあたりのサイトにまとめられている。
私はこの様子をテレビでリアルタイムで見ており、
正直に言えば、刺激的な映像に少々興奮してしまった。
最近の韓国・朴槿恵大統領の一連の疑惑を報じるニュースでは
報道陣が渦中の人物に一斉に詰め寄るシーンが何度も登場し、
「韓国の報道陣はすごいな。日本ではもうここまではやらないよな」
などと思っていたのだが、心配ご無用、日本のパパラッチ精神も
決して捨てたものではなかった。
およそ20年前、オウム真理教の教祖・麻原彰晃被告の弁護士となった
横山弁護士はマスコミにもみくちゃにされながら「やめて、やめて~」と
連呼していたが、その声は彼らの耳にはまったく届いていなかったのだ。
ASKAの件に話を戻す。
今回のマスコミの行動は不法侵入や器物損壊にあたると言われているし、
メディアスクラムの一事例として後の教科書に乗るかもしれない。
決して褒められたものではないだろう。
マスコミ批判はしかるべき方々にやっていただくとして、
私には一連の映像の中で少し気になる点というか、
カメラマンの人間らしさを感じてしまった点があった。
それはASKAが乗るベンツに報道陣が殺到する中で、
へし折られたエンブレムを数秒間カメラマンが「映し続けたこと」。
ベンツのエンブレムをしばらく映し続けたということは、
カメラマンはそのエンブレムになんらかの”価値”を見出していたことになる。
しかし冷静に考えれば、へし折られたエンブレムが意味するものは
過熱したマスコミの“失態”である。それをカメラマンは大写しにしてしまった。
いわば自殺行為だ。
ではなぜカメラマンはエンブレムを映し続けたのかというと
「なにか映さないと怒られる!」と焦っていたから。それしか想像がつかない。
取材陣が殺到する中で、後方に位置してしまったカメラマンというのは、
はっきり言って敗者だ。花見の場所取りに失敗した新入社員、
安売りワゴンに手の届かない主婦。安売りのキャベツを買えなかった主婦は
家に帰ってため息のひとつもつけばそれで済むが、カメラマンはそうはいかない。
ASKAの顔が撮れなければなにかを…と無我夢中のさなか、
意味ありげに転がったのがベンツのエンブレムだったのだ。
ASKAが乗り込んだベンツを取り囲んでいた人たち。
彼等はプロだ。美しいか醜いかは別として。
そんなプロたちを駆り立てているものは一体なんなのか。
その一端が、あのベンツのエンブレムが映し出された数秒間に表れていた、と思う。